職場のパワハラ・セクハラ相談 残業代請求




NEW!

●倉敷紡績事件
パワハラ、退職 令5.12.22判決

●しまむらほか事件
パワハラ、嫌がらせ 令3.6.30判決

●ヴィナリウス事件
パワハラ、うつ病 平21.1.16判決

●美研事件
いじめ、退職勧奨、時間外労働手当 平20..11.11判決

●三英冷熱工業事件
割増賃金、労働時間(時間外・休日労働) 平19.8.24判決

●山本デザイン事務所事件
割増賃金の算定方法について 

判例紹介 服部善一事務所



倉敷紡績事件      大阪地裁令和5年12月22日判決  NEW!

上司の言動がパワハラに当たるとして役員と会社に損害賠償請求

(内容)
倉敷紡績株式会社に勤務していた原告が、執行役員であり原告の上司であっ
た被告Aから会社を退職するまでの間、業務の進め方等に関し、「アホ」
「ボケ」「辞めさせたるぞ」「今期赤字ならどうなるかわかっているやろ
な」といった言動を日常的に繰り返し受けた。被告Aは、原告に対し、「自
分からかかってきた電話は3コール以内に出ろ」と言い、実際に原告が電話
に出るのが遅かった場合は原告を叱責することがあった。また、被告Aは、
顧客とのWEB会議の終了後に、原告が座っていた椅子の脚を蹴ったことが
1回あった。原告は前記パワーハラスメントを受けたことにより会社を退職
せざるを得なくなり、精神的苦痛を受けたなどとして、被告と会社に対し、
不法行為に基づく損害賠償として、660万円を請求した。


(結果)
被告Aの原告に対する上記言動は、被告会社のハラスメント防止規則の定め
るパワハラ行為に当たり、原告に対する注意や指導のための言動として社会
通念上許容される限度を超え、相当性を欠くものであるから、原告に対する
不法行為に当たる。また、被告Aの前記言動は、被告会社の事業の執行に関
連してされたものであり、原告が被告会社を退職した原因も、被告Aの言動
にあったものと認めるのが相当である。よって、被告Aは民法709条に基
づき、被告会社は民法715条1項に基づいて、原告に対し、連帯して損害
賠償責任を負うものといえる。

なお、原告は、被告Aから前記言動のほかにも、他のパワハラ行為を受けた
旨主張しているが、これらを裏付ける客観的な証拠がないことや、証人の証
言等により直ちに、被告Aがパワハラをしたと認めることはできず、他にこ
れを認めるに足りる証拠はない。

以上から、原告が受けた精神的損害に対する慰謝料の額は、50万円と認め
るのが相当である。また、本件事案の難易、認容額その他の事情を考慮すれ
ば、被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、慰謝料額の1割
に当たる5万円と認めるのが相当である。



しまむらほか事件    東京地裁令和3年6月30日判決  NEW!

暴行、パワハラ、嫌がらせ等を受けたとして同僚と会社に慰謝料請求

(内容)
被告会社は、ファッションセンターしまむらを経営する株式会社である。同
僚被告丙川(29歳)及び同丁原(56歳)は、原告(52歳)に対し、令和元年 8
月21日から9月27日までに次の行為をした。


(ア)被告丙川は、大きな怒鳴り声で、「甲野花子、甲野花子、甲野花子」、
「花 子、花子、花子」と何度も呼び捨てにして嫌がらせを続けた。

(イ)被告丙川は、「甲野さん仕事した。仕事した。仕事したの。」と嫌がらせ
を言っただけでなく、他の従業員にも、「甲野さん仕事した。」と言うよう
けしかけていた。

(ウ)被告丁原は、「甲野さん仕事した。仕事した。仕事したの。」と何度もし
つこく言ってくるので、原告が「仕事したよ。」と回答すると,「えー、甲野
さんが仕事しているのを見たことがない。」、「いつ仕事したの。」、「仕
事本当にしてるー。」と繰り返し嫌がらせをしてきた。同日、被告丙川が休
みであったが、被告丁原は,被告丙川から、「甲野さん仕事したの。」と言う
よう指 示を受けていると述べていた。

(エ)被告丙川は、「甲野さん仕事した。仕事した。仕事したの。」と何度もし
つこく言い、嫌がらせをした。

(オ)被告丙川は、「甲野花子,甲野花子,甲野花子」とフルネームで何度も呼び
捨てにする嫌がらせをした。また,被告丙川と同 丁原は、「甲野さん仕事し
た。仕事した。 仕事したの。仕事するの。」と何度もしつこく言い、 嫌がら
せをした。

(カ)被告丙川は、「甲野さん働いた。働くの。働くの。」と言って,嫌がらせ
を行った。また,被告丙川は、原告に対し、いきなり左足の膝裏を叩いて膝を
カックンとさせたり、左脇腹を指で突いたりする嫌がらせを行った。

(キ)9 月 26 日、被告丙川は、その背後から両手で両肩を掴み,後ろへ引き倒そ
うとした。さらに,被告丙川は、原告の左腕を指で突いてきた後,背中を強く押
した上、背中に膝蹴りを入れてきた。これに対し、原告が止めてほしいと言
う、その発言が気に入らなかった様子で、原告がシフト表を見ようとする
と、そのシフト表を手で隠すなどして,、見せないように嫌がらせをした。

(ク)被告丁原は、2 度にわたって,「仕事した。仕事した。」と言って、嫌がら
せをした。

(ケ)10 月以降,被告丙川及び同丁原は,原告に対し,直接的な暴力や言葉による
嫌がらせをしなくなったが、挨拶をしても無視したり、意味もなく睨み付け
るなどの嫌がらせをするようになった。


以上の被告丙川及び同丁原の原告に対する暴行、パワーハラスメント、嫌が
らせ等は、原告の人格権に対する侵害であって、共同不法行為に当たるか
ら、同被告らは、原告に対し、共同不法行為責任を負うとして、被告丙川、
同丁原及び被告会社しまむらに対して 140 万円の慰謝料を請求した。



(結果)
被告丙川は、9 月中旬以降、原告に対し、「仕事したの。」と言うようにな
り、店長代理の B にも原告に仕事をしたか聞くと面白いから聞くようにけし
かけ、実際に B が被告丙川に言われたとおり原告に「仕事した。」と質問
し、これに対して原告が拒絶反応を示していることに照らすと、被告丙川
は、原告に対し、原告の拒絶反応等を見て面白がる目的で「仕事したの。」
と言っていることが認められる。したがって、被告丙川のこの行為は、原告
に対する嫌がらせ行為であるといえる。加えて、被告丙川の 9 月 26 日午後
1 時頃の原告に対する行動も、その前後の経緯からすると、原告に対する嫌が
らせ行為の一環として行われたものと認められる。


また、被告丁原も被告丙川と同じ時期に、原告に対し、個別に、あるいは被
告丙川と同じ機会に「仕事 したの。」と被告丙川と同じ内容の発言をしてい
るのであるから、被告丙川と同様に原告の拒絶反応等を て面白がる目的でし
たと認められる。したがって,被告丁原のこの行為は、原告に対する嫌がらせ
行為であるといえる。

そして、原告はこれらの嫌がらせ行為により精神的に塞ぎ込んで通院するま
でに至ったのであるから、被告丙川及び同丁原の行為により原告の人格権が
侵害されたということができる。


以上によれば,被告丙川及び同丁原は,原告に対し,共同不法行為に基づく損害賠
償責任を負う。被告丙川及び同丁原の原告に対する嫌がらせ行為は、被告会
社の業務の執行につき行われたと認められるから、被告会社は,原告に対し、
使用者責任を負う。

被告丙川及び同丁原による原告に対する嫌がらせ行為の態様、継続期間、そ
の他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、被告丙川及び同丁原による嫌が
らせ行為により原告が受けた精神的苦痛を慰謝するには5万円が相当である。



パワハラ うつ病

ヴィナリウス事件  東京地裁 平21.1.16判決


いじめ 退職勧奨 時間外労働手当

美研事件  東京地裁 平20.11.11判決(控訴)


以上『職場のパワハラに負けない!』より


割増賃金、労働時間(時間外・休日労働)   

三英冷熱工業事件

東京地裁 平19.8.24判決


(事件の概要)

原告は、被告との間で、月給38万円、週5日午前8時から午後5時までの休憩を

除く7時間30分勤務、日曜日を法定休日、国民の祝日及び1月2日、3日、12

月29日から31日までを休日とする、週当たりの労働時間が45時間となる労働契
約を締結し、これに基づき平成15年4月から平成18年8月まで働いた。本件は、
原告が、労働契約に基づいて、被告に対し、平成17年1月から平成18年8月ま
での時間外及び休日の割増賃金の合計である124万6361円を支払うよう請求
したものである。

(判決要旨)

@原告の1時間当たりの時間単価は以下の算式により2268円と算定され、これ
に0.25を加算した割増賃金は2835円となる。なお、日曜日以外に休日を含ま
ない週は、週当たり40時間の法定労働時間に対して5時間が時間外労働として
計算すべきものである。

  年間労働時間 7.5×(365-52-15-4)-5×39=2010・・・
   時間単価   380000×12÷2010=2268
  (注)15は祝日の数、4は年末年始の休日数、39は5時間分に
     つき時間外となる土曜日の数

実際には、原告が請求したもの以外に時間外労働の部分があるが請求されていな
いので本件についてはこれを考慮しない。

A原告は、192日について時間外労働をしたと主張し、これを裏付けるものとして
日記の抜粋を提出した。これに対して、被告は時間外労働があったことを争うもの
ではないが、その時間については客観的な証拠がないと争っている。しかし、原告
提出の上記証拠は、その内容からみて原告の日記であることが明らかであり、そ
の内容は一日の行動が仕事を含めて書き綴られたもので、各日の冒頭に時間外
労働時間が記載されており、ここに記載された時間は、日記本文の記載内容とお
おむね整合し、また、本文中に具体的な時間のないものについても、時間外労働
をしたことが記述されるか、これを推測できる記述があることから、これらの冒頭
に記載された時間も一応信用し得る。

B原告の労働時間は、1日7時間30分であるから、時間外勤務のうち30分につ
いては法定労働時間を超えないので、当該部分につき割増賃金は発生しない。も
っとも、週当たりの労働時間は前記のとおりもともと法定労働時間を超過している
のであって、40時間を超過した後の時間外労働については、その日の労働時間
としては8時間を越えない部分であっても割増賃金が発生することとなる。
 その結果は、時間外労働の割増賃金は111万9420円となるが、原告主張の
額97万6727円を超えて認容することはできないので、原告主張の金額の範囲
で認容すべきこととなる。

C以上により、休日労働の割増賃金である26万9634円と97万6727円の
合計124万6361円の支払いを求める原告の請求には理由がある。

割増賃金の算定方法について  

山本デザイン事務所事件

(事件の概要)

被告は、広告・印刷物に関する企画・制作、グラフイックデザインの制作及び販売等
を業とする有限会社であり、原告は、平成15年3月に被告会社に入社し、コピーライ
ターとして勤務し、平成17年8月20日に解雇された。そこで、原告は、平成15年10
月から平成17年8月までの時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金
を支払うよう求めた。


この事件の争点は、割増賃金の単価がいくらになるか、基本給の減額は不利益処
分となるので同意を得たかどうか、原告の労働時間をどう算定するか、手空き時間を
どうみるか、管理監督者性があるのかどうかであった。


(事件の争点)

ここでは、争点を労働者にとっては切実な問題である割増賃金の時間単価をどのよ
うに考えるかに絞って話をすすめることにする。


原告の給与明細は平成15年3月から平成17年1月までは基本給のみで、平成16
年6月からは55万円。平成17年2月から同年8月までは基本給41万円、業務手当
11万6500円、深夜手当2万3300円、調整手当200円、役職手当3万円の合計5
8万円であった。

 
被告は、月額の所定賃金(基本給)に時間外、休日及び深夜の割増賃金が含まれて
いたと主張した。また、広告代理店のコピーライターなどについては、時間外勤務手
当は基本給に含まれているのが業界の一般的な扱いであるとも主張した。


(裁判所の判断)
 
@平成17年1月までについて
 
平成17年1月までは給与明細上は基本給とされているだけで、月額の所定賃金の
ほかに時間外、休日及び深夜の割増賃金が支給されている旨の記載がないところ、
毎月一定時間分の時間外勤務手当を定額で支給する場合には、割増率が所定のも
のであるか否かを判断しえることが必要であり、そのためには通常の労働時間の賃
金に当たる部分と時間外、休日及び深夜の割増賃金に当たる部分とが判別し得るこ
とが必要であるから、被告のような支給の仕方では不十分であり、基本給の中にこ
れらの割増賃金が含まれていたとは認められない。(小里機材事件最高裁判例昭
63.7.14参照)

また、業界の一般的な扱いにならったものとしても正当化することはできない。

A平成17年2月以降について
  
41万円の基本給を基準として、月40時間分の時間外割増賃金として業務手当11
万6500円、月40時間分の深夜割増賃金として深夜手当2万3300円を支給すると
いう方法は、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に
当たる部分とを判別し得るから、時間外及び深夜の割増賃金の支給の一方法として
許される。ただ、本件については、基本給の減額となり、原告にとって不利益処分と
なるので原告の同意を得る必要があったのに得られていない。そこで、従前のように
時間外、休日及び深夜の割増賃金が含まれていると認めることはできない。


                         以上(H20.11.11)